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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)212号 判決 1999年9月22日

原告

共立電器産業株式会社

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

安藤寿朗

同弁理士

被告

株式会社サークランド

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

小林郁夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成9年審判第40033号事件について、平成10年6月2日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「空気清浄装置」とする実用新案登録第3028457号実用新案(平成8年2月27日実用新案登録出願、同年6月19日設定登録。以下「本件実用新案」という。)の実用新案権者である。

原告は、平成9年11月27日、本件実用新案の実用新案登録を無効とする旨の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成9年審判第40033号事件として審理した上、平成10年6月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月17日、原告に送達された。

2  本件実用新案の要旨

1 本件実用新案の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された考案(以下「本件考案1」という。)の要旨

針状のコロナ発生電極と、一端開口内に、上記コロナ発生電極の先端部が挿入されてなる円筒状の第1の対向電極と、この第1の対向電極内に立設され、上記コロナ発生電極と対向する第2の対向電極とを有し、上記第1、第2の対向電極と上記コロナ発生電極との間に高電圧を印加することにより、イオン風を発生させ、同時に発生したオゾンを上記第1の対向電極の他端開口から外部に放出することを特徴とする空気清浄装置。

2 同請求項2に記載された考案(以下「本件考案2」という。)の要旨

請求項1記載の空気清浄装置において、上記第2の対向電極と上記コロナ発生電極の距離は、上記第1の対向電極の内径の1/2以下であることを特徴とする空気清浄装置。

3  同請求項3に記載された考案(以下「本件考案3」という。)の要旨

請求項1記載の空気清浄装置において、上記コロナ発生電極を保持する第1のホルダと、上記第1、第2の対向電極を保持し、上記第1のホルダと着脱自在に設けられた第2のホルダと、前記第1、第2のホルダのどちらか一方に設けられ、前記各電極に給電を行う給電手段とを有することを特徴とする空気洗浄機。

4  同請求項4に記載された考案(以下「本件考案4」という。)の要旨

請求項1記載の空気清浄装置において、上記第1の対向電極には、非導電部材で形成され、この第1の対向電極の他端開口内に指が挿入されることを防止する指挿入防止部材が取付されていることを特徴とする空気清浄装置。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件考案1~4(以下「本件各考案」という。)に共通する要件である「第1の対向電極内に立設され、上記コロナ発生電極と対向する第2の対向電極を有し」の「第2の対向電極」及び「立設され」が明確でなく、本件実用新案登録が、実用新案法5条6項2号の規定に違反して登録されたものであり、無効とすべきであるとの請求人(本訴原告)の主張について、本件各考案の「第2の対向電極」及び「立設され」が明確でないとはいえないとし、請求人が主張する理由によっては、本件各考案に係る実用新案登録を無効とすることはできないとしたものである。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本件各考案の要旨の認定、本件明細書の記載事項の認定は、いずれも認める。

審決は、本件明細書における実用新案登録請求の範囲の記載が、実用新案法5条6項2号の規定に違反するとの原告の主張について、判断を誤り(取消事由)、本件各考案の実用新案登録を無効とすることができないとしたものであるから、違法として取り消されなければならない。

すなわち、本件各考案に共通する要件である「第1の対向電極内に立設され、上記コロナ発生電極と対向する第2の対向電極を有し」の「第2の対向電極」及び「立設され」については、本件明細書(甲第6号証)に、「細径棒状の第2の対向電極7が円筒状の第1の対向電極内に直径方向に沿って立設される」として、1実施形態が記載されているだけであり、この概念の外延を示す記載がない。また、本件各考案が、この実施例以外に、「より低電圧でイオン電流及びオゾンを有効に発生させることができる」というような効果を奏するためには、どのような形状でどのように立設される第2の対向電極を含むのかが明確でない。したがって、例えば、円筒状の第1の対向電極が形成する中空の通路を閉鎖するような形状のもの、該中空の通路における空気の流通を困難にするような形状のもの、円筒状の第1の対向電極との間では放電せず第2の対向電極との間でのみ放電するような形状のものも、文言上含むことになるが、このような形状のものは、本件各考案の課題を解決できず前記の効果も達成しない。

しかも、本件各考案において、針状のコロナ発生電極と円筒状の第1の対向電極との間の距離と、同じといえる距離より近い位置に第2の対向電極を設置すると、同じ電圧であっても空気の絶縁が破壊され、火花放電が生じることとなり、イオン電流及びオゾンを有効に発生させるという上記の効果を奏することはできない。このことは、原告会社による試験報告書(甲第17号証、以下「本件試験書1」という。)及びDによる試験報告書(甲第18号証の1及び2、以下「本件試験書2」という。)からも明らかである。したがって、上記の効果を達成するためには、コロナ発生電極と第1の対向電極との間の距離と、コロナ発生電極と第2の対向電極との間の距離とが、同じといえる範囲にあることが必要であるところ、その構成要件が明確にされていない。

以上のとおり、本件実用新案登録は、実用新案法5条6項2号の規定に違反し無効である。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は理由がない。

本件各考案では、「針状のコロナ発生電極」と「円筒状の第1の対向電極」と「細径棒状の第2の対向電極」との間に高電圧を印加することにより、イオン風を発生させるのであるから、「細径棒状の第2の対向電極」が「立設され」の文言からしてもその外延は明確である。原告は、この点についての概念の外延が不明確であると主張するが、その根拠は不明である。

原告が例示する、第2の対向電極の3つの形状のように、高電圧を印加できない、イオン風を発生しない等のために、本件考案の課題を解決できない、あるいは作用効果を奏しないような場合は、本件各考案の外延の問題ではなく、そもそも本件各考案が予定する構成要件に該当しない場合である。原告のような解釈を前提とするのであれば、全ての考案において、概念の外延は不明確にならざるを得ないから、原告の主張は、考案が技術思想の表現であることを忘却した議論である。

また、原告は、コロナ発生電極と第1の対向電極との間の距離と、コロナ発生電極と第2の対向電極との間の距離とが、同じといえる範囲にあることが必要であると主張するが、この主張が、上記の第2の対向電極の形状及び立設の態様が不明確であるとの問題とどのように関連するのか不明である。なお、本件考案1において、コロナ発生電極と第1の対向電極及び第2の対向電極との距離は、それぞれ等間隔である必要はなく、等間隔でなくとも各電極との間で放電するものである。

したがって、本件実用新案登録が、実用新案法5条6項2号の規定に違反して登録されたものではないとする審決の判断(審決書8頁20行~9頁12行)に、誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  実用新案法5条6項2号の違反(取消事由)について

審決の理由中、本件各考案の要旨の認定、本件明細書の記載事項の認定は、いずれも当事者間に争いがない。

原告は、本件各考案に共通する要件である「第1の対向電極内に立設され、上記コロナ発生電極と対向する第2の対向電極を有し」の「第2の対向電極」及び「立設され」について、本件明細書に「細径棒状の第2の対向電極7が円筒状の第1の対向電極内に直径方向に沿って立設される」として、1実施形態が記載されているだけであり、この概念の外延を示す記載がないと主張する。

しかし、前示実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件各考案においては、第2の対向電極が、第1の対向電極内に立設されていること、該第2対向電極が、コロナ発生電極と対向していること、第1及び第2の対向電極とコロナ発生電極との間に高電圧を印加することにより、イオン風を発生させ、同時に発生したオゾンを上記第1の対向電極の他端開口から外部に放出すること等が開示されており、これらの事項から、本件各考案における第2対向電極の構成、機能及び技術的意義が明確に把握できるものといわなければならない。

また、本件明細書(甲第6号証)には、本件各考案の実施例における「立設」という用語に関して、「この第1の対向電極6内に立設された細径棒状の第2の対向電極7とからなる。」(同号証5頁26~27行)、「上記第2の対向電極7は、この第1の対向電極6の直径方向に沿って立設され、」(同7頁12~13行)、「この考案では、筒状の第1の対向電極6内に第2の対向電極7を立設し、この第2の対応電極6(注、「対向電極7」の誤り)からも上記コロナ発生電極5に高電圧を印加することができるようにした。」(同8頁29行~9頁2行)、「また、各電極5、6、7を、同数だけ設け、図1に示す装置を複数個並列に連結してなる構成であっても良い。この際、上記一つのベース8に上記コロナ発生電極5を複数個立設し、・・・」(同10頁14~16行)と記載されている。

これらの記載及び図1によれば、本件各考案の実施例における第2対向電極の「立設」とは、円筒状の第1対向電極内に、その直径方向に沿って細径棒状の第2対向電極を設置することを意味しているものと認められ、このことは当事者間にも争いがない。したがって、当業者は、本件明細書における本件各考案の実施例の記載に基づいて、考案の内容を具体的に把握し、実施可能なものと理解できるものであり、しかも、前示のとおり、考案の要旨においても第2対向電極の構成、機能及び技術的意義は明らかであるから、その外延が不明確であるとする原告の主張を採用する余地はない。

そうすると、審決が、「『第2の対向電極』は、筒状の第1対向電極内に立設されるものであって、第1対向電極と相まってコロナ発生電極との間に高電圧が印加され、イオン風を発生させ、同時に発生したオゾンを第1の対向電極の他端開口から外部に放出する機能を有するものであることは、請求項1乃至4の記載事項から明確に把握でき、その機能を有させるための具体的形状、具体的立設手段は・・・考案の詳細な説明中に、一実施形態として具体的に記載されていることからして、『第2の対向電極』及び『立設され』が明確でないとはいえないものと認める。」(審決書9頁18行~10頁9行)と判断したことに誤りはない。

また、原告は、本件各考案が、上記実施例以外にどのような形状でどのように立設される第2の対向電極を含むのかが明確でないから、円筒状の第1の対向電極が形成する中空の通路を閉鎖するような形状のもの、該中空の通路における空気の流通を困難にするような形状のもの、円筒状の第1の対向電極との間では放電せず第2の対向電極との間でのみ放電するような形状のものも、文言上含むことになるが、このような形状のものは、本件各考案の課題を解決できず効果も達成しないと主張する。

しかし、実用新案登録請求の範囲においては、実用新案登録を受けようとする考案に関する基本的事項を明確に記載すれば足りるのであって、当該考案の目的、作用効果の達成を困難とするようなすべての具体的構成を排除するように当該請求の範囲を記載しなければならないわけではない。本件各考案においても、その実用新案登録請求の範囲に、当該目的、作用効果を達成するための事項が明確に開示されていることは前示のとおりであり、第2の対向電極に関して、原告があえて本件各考案の作用効果を達成しないように想定した形状のものを、逐一排除するようにその具体的な大きさや形状を記載する必要のないことは明らかである。したがって、原告の上記主張は失当であって、到底これを採用することはできない。

さらに、原告は、本件試験書1及び2に基づき、本件各考案においてイオン電流及びオゾンを有効に発生させるという効果を達成するためには、コロナ発生電極と第1の対向電極との間の距離と、コロナ発生電極と第2の対向電極との間の距離とが、同じといえる範囲にあることが必要であるところ、その構成要件が明確にされていないと主張する。

しかし、原告が、本件審判手続において、コロナ発生電極と第1の対向電極及び第2の対向電極との間の距離に関する上記の主張を全く行っていないことは、本件審判請求書(甲第2号証)から明らかである。しかも、本件考案2では、前示のとおり、「上記第2の対向電極と上記コロナ発生電極の距離は、上記第1の対向電極の内径の1/2以下であることを特徴とする」ことが考案の要旨とされており、コロナ発生電極と第2の対向電極との間の距離が、コロナ発生電極と第1の対向電極との間の距離と、同等かそれ以下であることが特定されているのに対し、原告の従前の無効理由は、この本件考案2を含む本件各考案に共通する要件である「第2の対向電極」及び「立設され」について、単にその概念の外延が不明確であるとするものであるから、この従前の実用新案法5条6項2号の規定に違反する旨の無効理由の主張と、上記のコロナ発生電極と第1の対向電極及び第2の対向電極との間の距離に関する主張が異なるものであることも明らかである。したがって、このように本件審判手続において審理判断されなかった無効原因を、審決の取消訴訟においてこれを違法事由として主張し、裁判所の判断を求めることは許されないことである(最高裁判所昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照)から、その余の点について検討するまでもなく、原告の主張は採用することができない。

2  以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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